こんにちは、カフです!







今回は、YOASOBIさんの新曲『アンコール』の歌詞の意味を考察&解説していきます。









リリースされる前からGooglePixelのCMで使われていたので知っている人も多いはずです。









*今回の原作は6章で構成された小説で『世界の終わりと、さよならのうた』という題名です。
『世界の終わりと、さよならのうた』 (著:水上下波)








では早速『アンコール』の歌詞の意味を、『世界の終わりと、さよならのうた』を読みながら考察したいと思います。






















1.キーワードの模索

アンコール4

今回考察するにあたって、以下3点に注目しました。





POINT

・『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(著:村上春樹)との関連性
・アイデンティティの再獲得
・“さよなら”を前提としたアンコール










まず1つ目のキーワード『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(著:村上春樹)との関連性について説明します。








原作の題名『世界の終わりと、さよならのうた』、章が変わるごとに視点が入れ替わる構成の2つから、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』と何かしら繋がりがあることが指摘できます。
長くなってしまうので『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の概要・あらすじは説明しませんが、その“何かしら”の正体が2つ目のキーワードなので詳しくは次に触れていきます。














アンコール2

2つ目のキーワードアイデンティティの再獲得について説明します。
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の中で、〈影〉が存在しない〈世界の終わり〉という世界が舞台として登場します。
分かりやすい言葉に置き換えると、「心」が存在しない「精神世界」のことで、科学技術の進歩によって永遠を手に入れることができる完璧な世界のことを指しています。
しかし前述したように、その世界では心を持つことができません。










自己の自由を奪われることを恐れた主人公は、自分の心である〈影〉とともに〈世界の終わり〉からの脱出を試みますが、結局〈影〉だけが脱出し、主人公は〈世界の終わり〉に残ったところで物語は幕を閉じます。
結末には様々な解釈ができますが、科学技術によってねじ曲がった倫理観から自己の心、自由を守ることの重要性を問いかけている、というのが王道です。











『世界の終わりと、さよならのうた』と『アンコール』も本質的には同じテーマを根底に持っていて、それがアイデンティティの獲得です。








「終末宣言」が発表されてからの1年間で世界はかなり荒んだ状態になってしまい、その間に〈私〉も〈俺〉もこれまでやっていた音楽をやめてしまいます。
彼らは自ら自己を手放してしまったのです。
しかし、2人は即興でセッションする中で音楽の意味を見出し、最後に〈俺〉の視点で祈りが書かれており、それはアイデンティティと心の再獲得を示しています。
さらに2人は最後に“自己紹介”をすることで、作中での名前が〈私〉と〈俺〉という一般名詞から、〈奏〉と〈修也〉という固有名詞に変わるという部分も、自己の獲得という点で大事な意味を持ちます。










そしてもう一つ、作中で気になる2人の態度の変化があります。
まず〈私〉についてですが回想で言っていたように、もともとピアノをやり始めたきっかけは両親の勝手な期待による半強制的なもので、彼女の意志は反映されていません。
〈俺〉の過去も同じで、親友が旅に出ようといったから旅に出たのであり、そこに自分の決定権はありませんでした。
作中の前半で彼らが発する「好きにします」「好きにしたらいい」という言葉も、どこか受け身的で明確な意志を持った発言ではありませんよね。










それに対して、
6章から引用した以下3つのところは、はっきりと彼らのやりたい事、知りたい事などが能動的に描かれている部分です。

「昔のこと?良ければ教えてくれませんか?それとも、それも話しても仕方ないことですか?」

彼女が優しく微笑む。
それを見ていると、どうしようもなく自分のことを知って欲しくなった。

その言葉は不思議と胸の奥にしみこんできて、心がスッと軽くなったような気がした。
それからようやく気づく。俺はずっと、アイツが戻ってくることを待っていたのだ。

明日本当に世界が終わるのかは分からない。
けれど、どうか終わらないで欲しい。俺は本当に久しぶりに、そう思った。

もしも明日世界が終わらなかったら。その時は俺と一緒に旅をしないか?
そう言ったら、彼女はどんな反応をするだろうか。俺はギターを弾きながらずっと、そんなことを考えていた。

『世界の終わりと、さよならのうた』 (著:水上下波) より引用)









このように彼ら2人にとっては、元の世界が「心」を持たない〈世界の終わり〉なのであり、終末が明日に迫った世界は彼らを〈世界の終わり〉から解き放ってくれたということです。













アンコール1

最後に3つ目のキーワード“さよなら”を前提としたアンコールについて説明します。








原作が『世界の終わりと、さよならのうた』なのに対して、曲名は『アンコール』であるところに最初は違和感を感じた人もいるかもしれません。
“アンコール”の意味はそもそも、上演予定の演目が終わった後に追加公演を要望する掛け声のことです。
つまり、終わりが目前に見えている時に初めて使われる表現なわけです。
『世界の終わりと、さよならのうた』について言えば、世界が終わるのか書かれておらず、「彼女と旅に出たい」という〈俺〉の夢が叶ったかどうかは私たち読者の想像に委ねられている状態です。
しかし『アンコール』と絡めることによって、彼の夢が物語上アンコール的な意味合いを持つからこそ世界の終わりがより確実なものになってしまいます。








『世界の終わりと、さよならのうた』を読んでから『アンコール』を聴くと、自分のやりたい事や音楽の意味に気づけた〈俺〉が彼女との旅を夢見る一方で、私たち鑑賞者は世界が必ず終わってしまうことを知っているため、悲しくも爽快感のある気持ちを抱いてしまいます。










両方を知ることで初めてカタルシスに似た読後感を味わえるという意味では2つで1つの作品になっており、昨年大ヒットした『夜に駆ける』に優るとも劣らない作品になっていると個人的には思います。
















長くなりましたが、以上3つのキーワードを踏まえて読んでいくと、これからの考察がより理解しやすいと思います。















2.歌詞考察&解説


アンコール3

明日世界は終わるんだって
君にはもう会えないんだって
またいつかって手を振ったって
叶わないんだよ
仕方ないね
明日世界は終わるんだって
それならもう
その時まで何度でもずっと
好きな音を鳴らそう
『アンコール』/YOASOBI

曲の冒頭から最後の方に繋がってくる歌詞です。
〈俺〉の視点で描かれており、「いっそ最期まで音楽を楽しもう」という現実を見つめたものになっています。
歌詞考察の最後でもう一度触れますが、ここは〈俺〉の気持ちの変化を表すうえで大事なポイントです。










薄暗闇に包まれた
見覚えのない場所、目を覚ます
ここは夜のない世界
今日で終わる世界
そんな日にあなたに出会った

好きにしていいと
それだけ残して
何処かへゆく
あなたの音が遠ざかってく
そしてまたひとり
淀んだ空気の中で
『アンコール』/YOASOBI

『世界の終わりと、さよならのうた』の1章から3章までの出来事が〈私〉の視点で描かれていますね。










ありふれたあの日々をただ思い返す
終わりが来ることを待つ世界で
辛い過去も嫌な記憶も
忘れられないメロディーも
今日でさよなら
『アンコール』/YOASOBI

〈私〉がピアノを弾くことで自分の本当の気持ちに気づき始め、アイデンティティを再獲得しつつあるサビです。











ひとり車を走らせる
営みの消えた街の中を
明日にはもう終わる今日に
何を願う
何を祈る

何処かから不意に
微かに聞こえてきたのは
ピアノの音
遠い日の音

誘われるままに
呼吸を合わせるように
重ねた音
心地良くて
懐かしくて
幾つも溢れてくる
『アンコール』/YOASOBI

4章から5章までを〈俺〉の視点で描いた部分です。
彼はまだ、自分が「何を願い、何を祈る」のか、なぜ楽器を沢山集めているのかさえ自分でよくわかっていません。











いつしか蓋をして閉じ込めていた記憶
奏でる音が連れてきた思い出
気が付けば止まったピアノ
いつの間にか流れた涙
続きを鳴らそう

ありふれたあの日々をただ思い返す
終わりが来ることを待つ世界で
辛い過去も嫌な記憶も
忘れられないメロディーも
さよならなんだ

今ここで好きなようにただ音を鳴らす
最後の日に二人きりの街で
ありふれたあの日々をただ想い奏でる音が
重なり響く

明日世界は終わるんだって
明日世界は終わるんだって
もしも世界が終わらなくって
明日がやってきたなら
ねえ、その時は二人一緒に
なんて
『アンコール』/YOASOBI

親友が死んだことを音楽のせいにして、勝手に音楽から逃げていた自分に気づき、またあの時のように「続きを鳴らそう」と〈俺〉の気持ちに小さな変化が表れていることが歌詞から垣間見えます。








曲の冒頭で、現実を見つめる〈俺〉の視点が描かれていましたが、最後は逆に「明日世界が終わらなかったら二人で一緒に出掛けようなんて」という淡い期待を持つ〈俺〉が描かれています。
これまで受け身で過ごしていた〈俺〉が、最後は自己を持つようになり、終末を否定したい想いを胸にギターを弾く様子が浮かびますね。









そして彼の願いが「アンコール」となって、世界が終わることをより確実なものにしてしまうという逆説的な物語展開が、なんとも悲しい気持ちになります。









(いやぁ、尊い…。)















3.編集後記





ここまで、「小説を音楽にする」というYOASOBIさんのコンセプトが光った新曲『アンコール』を考察してきました。









そのうち同時にリリースされた『怪物』も考察したいなぁ。
とは思いつつも、『BEASTERS』を観ていないので中途半端な解釈はしたくないなぁ。
という気持ちもあって…。
みなさんはどのアーティストの歌詞考察が読みたいですか?
よければコメントしてもらえると嬉しいです。












いかがでしたか?







質問やリクエスト、違う解釈の可能性などありましたら是非コメントで教えてください。






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最後まで読んでいただきありがとうございました。